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わたしと天知茂の恋愛結婚週刊明星:1963(S38)12月15日号:32歳
純代夫人
わたしと天知茂の恋愛結婚
血相かえてプロポーズした異色スター

ゾクッとするニヒルな魅力。グッとくるセクシー・ボイス。そこへ最近はコミカルな深みまで加わって、“日本のロベール・オッセン”の人気がすごい。スター生活すでに十余年。今やテレビを制覇したかたちの天知茂だが、意外にまだよく知られていないのは、家庭における甘い愛妻家ぶりだ……!

奥さまとは同郷、同期生

「ひどいワ、いつのまにやらお子さんまであったなんて!」
最近、ある週刊誌に家族団らんの写真を出されて以来、しきりに恨みのファンレターが舞いこむようになった。
だが天知は、べつだん世帯もちであることを隠してきたわけではない。ニヒルな魅力のおかげか、なんとなく独身みたいに思われてきたまでのことだ。
奥さんの純代さんは、天知と同じ新東宝ニューフェイス一期生(芸名・森悠子)で、出身も天知と同郷の名古屋。果物卸問屋の娘に生まれ、女学生時代はスポーツウーマンで鳴らし、水泳の高飛込み選手として国体にも出場した。愛知県立女子短大英文科を中退して新東宝入り。
対する天知は、本名臼井登、純代さんより一年先輩の昭和6年3月4日、すし屋の四男坊として生まれた。長兄は戦死、次兄とすぐ上の兄さんは、現在も名古屋で写真館とすし屋を経営している。
正確に言えば、天知が生まれたころ、亡父はまだタクシー会社をやっていた。いわば男ばかりの仕事だから、おかあさん(現在74歳)は割とヒマがあった。
「だから、末っ子の僕を連れて、よく近所の映画館へ通ってたものです。僕が役者になったのは、おふくろの責任ですナ」
しかし昭和26年、野球で有名な東邦商高を卒業と同時に新東宝第一期ニューフェイスに応募したのは「地元で受験できたので、ただなんとなく」だった。
なんとなく受けたら、なんとなく受かっちゃって、そこで顔を合わせたのが、未来の奥さま森悠子だったというしだい。
同郷のよしみで、純代さんのご両親から「世間知らずの娘をよろしくお願いします」と頼まれ、その任を果たすべく親しく交際しているうちに、ただなんとなく恋愛みたいになったという。どうも彼の話は「ただなんとなく」が多い。

血相変えてプロポーズ

「ところが、あの新東宝の衰運でしょう。僕は俳優クラブの会長をやってたせいもあってやめる機を失し、最後まで残りました。給料が出ない頃のデートはつらかったな。机の引き出しをひっかきまわして全財産の250円を探しだし、50円の映画を見て、30円のラーメンをすすって……」
純代さんを姉さんの家まで送り届け、さて気づいたら帰りの電車賃がない。ええい、ままよと、アパートまで6キロほどの道をテクって帰ったこともある。
「僕らは二人とも楽天家なのか、デートが苦しかった割には結婚の時は悲壮にならなかった。まぁなんとかなるさというわけで、名古屋で式をあげて、東京・世田谷で間借りの新世帯をかまえちゃいました」
というわけで、天知の談話では、プロポーズのいきさつが完全にカットされている。そこで、この場面だけを奥さまに補っていただくと――。
「私たち、交際はしてたけど、共演作品は一本もなかったんです。私はお恥ずかしいみたいな役ばっかりで……。暇の多い私のほうから“また50円の映画でも見に行きましょうよ”と誘っても、“いや、こう金欠の時こそ勉強のチャンス”と冷めたい返事でしょ。エライナァと感心しながらも、なんてトーヘンボクだろうとガッカリもしてたの」
ところが、たまたまそのころ、郷里の名古屋のほうで、純代さんの縁談がおこった。微妙な気持ちでそのことを天知に相談したら、がぜん眼つきが変わった。そして、かみつくような口調で曰く――。
「そんなところへ行くな。だったら、オレのところへ来いよ……!」
こうして、昭和32年3月15日めでたく結婚。東京・新橋クラブでの披露宴には、新東宝の同期生20名ぜんぶが集まり、高島忠夫が司会役をつとめてくれた。

11月25日に男児誕生

現在、天知は、自ら「平凡な模範亭主」を以って任じている。
「酒はぜんぜんやらないし、勝負ごとも……結婚前に純代に将棋を教えてやったら、二度目の対局でもう先生のほうが負けちゃった。いらい、オレは勝負ごとはダメだと悟りを開きましてね。ま、この亭主の唯一の欠点といったら、めったに家にいないことぐらいですかな」
だが、その“唯一の欠点”だって、もとはといえば、天知の稼ぎがよすぎるためだ。日・月・火が大阪で『虎の子作戦』(関西テレビ)の録画。水・木・金が東京で『孤独の賭け』(東映テレビ映画=NET)と『紳士淑女協定』(フジテレビ)、金・土は大阪へ舞い戻って『悪銭(ぜに)』(読売テレビ=先週終了)――これでは、一つの家に落ち着けない。
妻子のいる“本宅”は、京都市左京区(*以下省略)。
東京で働くときは、世田谷区(*以下省略)。こちらは、奥さまの弟(大学生)と二人の野郎世帯だ。
今年の初めから本拠を京都に移したのは、大映と優先本数契約を結び、時代劇出演が本命になるはずだったため。ところが皮肉なことに、引越したとたん東京でもテレビの仕事に追いまくられるようになった。
おかげで、純代さんは、近所の奥さまがたから「天知茂の二号さんらしい」との濡れ衣を着せられた時期もある。
やっと“本妻”の名誉は挽回できたものの、『悪銭』が終わった今となっては、やはり一刻も早く古巣の東京へ帰りたい。だが、ここしばらく、帰るに帰れない家庭の事情がある。この11月25日、長男の慶君が生まれたからだ。
慶君という名前は、パパが親友高松英郎(10月に愛児誕生)から姓名学の本を借りてきて、研究のすえつけた。
結婚翌年に生まれた長女の名は、千景ちゃん(5歳)。幼稚園へ通い、今がおしゃまな盛りだ。

泣かせてくれる千景ちゃん

「パパは、なぜこんなにたくさん名前があるの? お家ではウスイノボルで、映画ではアマチシゲル、テレビではエビナショージローでしょ」
これが、千景ちゃんの最大の疑問。エビナショージローというのは、先ごろ終わった連続テレビドラマ『炎の河』の主人公の名前だ。
「“炎の河”は昼の番組だから見ていたらしい。夜の連ドラは、からだに悪いから、なるべく見せないようにしています。たまにいっしょにビデオどりのドラマを見ていると、“なぜパパが二人もいるの?”と聞かれて弱ります」と、パパは苦笑する。
「二週間前“虎の子作戦”をいっしょに見てたら、僕(大阪府警の刑事。通称“シャネルうどん”)が格闘でいい調子でしょ、パパが勝っちゃったと大喜びでね」
「ひょっこり深夜劇場をみていることもあるけど、僕が悪役でピストルをぶっ放していても、パパは悪いやつをやっつけてる……と信じこんでくれている。まったく有難いもんです」
「“座頭市”の映画を見せた時なんか、僕の平手造酒が最後に斬られて死んじゃったでしょ。あ、あ、あ……って、とうとう最後に泣きだしちゃってねぇ」
とろけそうに細めた眼が、うっすらとうるんでいた。
とにかくパパは、千景ちゃんをむちゃくちゃ可愛がってきた。映倫スレスレの昔のスチール写真などはぜったい千景ちゃんの眼にふれない所に隠してあるし、血まみれの扮装のままで帰宅した時は「チョコレートがいっぱいついちゃってネ」と、千景ちゃんをコワがらせないためのウソも忘れない。
慶君の誕生によって、このパパの子煩悩ぶりが倍増してわけだから、いったいどういうことになるのやら……。

家庭常識は“最低亭主”

自称「模範亭主」プラス・親バカ。これなら純代奥様は文句のつけようがないはずだが、どっこいそうはいかない。
「縦のものを横にもしてくれない模範亭主なんてあるかしら。お産の前に“東京の家にしまってあるサラシを持って来て頂戴”と頼んだのに、忘れに忘れたすえやっと持って来てくれたのが、なんとタオルが30本……。あきれてものも言えなかったワ」
こと家庭常識にかけては「最低亭主」だが、「俳優としては大尊敬しています」――これが奥様の採点だ。「主人の作品なら、映画でもテレビでも、何から何まで見てます。だから、主人の作品は、日本中で必ず最低一人の観客はいるわけです」と笑う。
「主人が家へ帰る夜は、どんなにおそくとも、家中の電灯をパーッとつけて待っています」
これが奥様のオノロケで、
「やっぱり、家へ帰ると、すごく落着く。女房のおかげです」
これは旦那さまのお返し。
「自分で言ってはなんですが、仕事のほうも快調です。今やってるコメディ・タッチのもの(『虎の子作戦』『紳士淑女協定』)は、従来の自分のイメージをぶっこわすのに役立つと思います。来年は、映画の方も大いに脱皮してがんばりますよ」
常に演技意欲に燃え、一見無愛想で非情そうな風貌の底に、無頼の誠実さを秘めている。約束の時間も、ぜったい破ったことがない――各テレビ局のディレクターたちも、口をそろえてほめちぎる。
ほめついでに、結婚式に司会役をつとめた同期生高島忠夫の讃辞で結んでおこう。
「天っちゃんとはしばらく会ってないけど、会えばスーッと心が通じ合う感じ。新東宝入社当時は目玉がギョロリとして“あいつ、共産党じゃないか”と言われたほどだけど、ナカミはめっぽう味のある男です。デップリとカンロクのついたグラマー愛妻や子どもと遊んでる時は、いったいどんな顔をしているのやら……想像するだけでもニヤニヤしちゃいますよ」

【写真キャプション】
・長男の慶クン(11月25日出生)の寝顔に眼を細める純代夫人 (白いおくるみにくるまってオメメをぎゅっとつむってる慶クンを嬉しそうに見つめてる奥様)
・茶の間で絶賛を博している『孤独の賭け』(東映TV−NET)で、共演の小川真由美と (ビルをバックにあさっての方向を見つめているふたり)
・『紳士淑女協定』(フジTV)では和服の着流しという異色のスタイルの探偵を演ずる (着物姿で何かを探っているの図)
・好評のうちに終了した『悪銭』より――右は山茶花究 (書類を手にして相手をギロッと睨んでいる)
・ゾクッとするニヒルな魅力、グッとくるセクシー・ボイスで“日本のロベール・オッセン”の人気がすごい (黒っぽいコートをはだけて白いスーツを見せ、右足をどこかに掛けて煙草を吸ってる左斜め横からの写真)

*ロベール・オッセン(1927-)、えらくおっちゃんになった「愛と哀しみのボレロ」(1981)しか知らないのだが、若い頃は「個性派で、唇がちょっと肉感的で、そらもうむちゃくちゃカッコよかった!」のだそうである(オカン談)。

*出演作が目白押しで人気急上昇の頃の記事。それにしても「虎の子…」のシャネルの正式(?)名称が“シャネルうどん”だとは…(みんなが蕎麦を食ってるときでもひとりだけウドンを啜っているから、らしいが)。もしかしてシャネル、本名は木村準太だったり?←それはショボクレ@犬シリーズ

(2009年3月5日)
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